ホーム　＞　ペーパー取引、いきます！（3）

おはようユミちゃん。きのうはぐっすり眠れたかな？

はい。ぐっすり。

そうか。それはよかった。じゃあ、思い切って言ってしまおう。今日は、東京工業品取引所の金相場は上がるよ。

はい？

先生は金価格が上がるっておっしゃったんだ。

それというのはどういうことですか？ もしかして、アタシが損をするってコト？ そして先輩が儲かるってコトですか？ なんで取引が始まっていないのにそんなこと、先輩にわかるんですか？ 失礼しちゃうわね（怒）！

いや、ボクが言ったんじゃなくって。

じゃぁ、だれ？

だから先生が…。

ユミちゃん、落ち着いて聴いてほしい。いまは朝の８時４５分。東工取の金ミニ先物の取引が始まるのは９時。もちろん確実ではないけれど、いまの段階である程度の予測は立つんだ。

それはまたなぜでしょう？

それはボクに説明させて下さい。まず東工取の金相場はどんな理由で上がったり下がったりするかってこと。

それはそのぉ…。買いたい人が多いと値段が上がって、売りたい人が多いと下がるんじゃないでしょうか。

その通り！ オサダくんが言いたいのはまさにそのトコロ。じゃあなんで買いたいヒトが多くなるとボクが考えているのか？

理由は２つ。ひとつはニューヨーク（ＮＹ）の先物市場の金価格の動向。もうひとつは円と米ドルの交換レート、つまりドル円為替相場の変化さ。

ぐっ。む、むつかしそう（泣）。

そんなことはないよ。すごく単純。まずＮＹのハナシから。金の価格はなにも東工取、つまり東京だけで決まっているわけではないんだ。ＮＹにはコメックス（ＣＯＭＥＸ）※1と呼ばれる先物市場がある。伝統ある世界最大の金先物市場さ。それからロンドンには世界最大の現物市場※2があって、そこでも金価格が決められている。もちろん他にも市場はあるのだけれど、その他の金市場への影響力の大きさから言ったら、ＮＹとロンドンが双璧だよね。 　それでマーケットには開く、あるいは取引を始める順番ってのがあるんだ。時差の関係だけどね。例えば東工取の取引は午前９時から午後５時３０分までだよね。※3東工取の次に値決めが始まるのはロンドンで日本時間の午後６時３０分（現地時間午前１０時３０分）。それからおよそ３時間後にあたる午後９時２０分（同午前８時２０分）になるとＮＹコメックスで金取引が始まる。それからまた東京に戻ってくるって仕組み。 　つまり金の値づけは切れ目なくぐるぐる回っているってことなんだけど、日本市場では、一般的に投資家は取引開始時に最新の値段であるＮＹコメックスの価格を参考にして取引を始めるのさ。とは言ってもＮＹの取引価格はドル建てなんだよね。だからＮＹ金価格と同時に、ドルと円の交換（為替）レートも東工取で金を取引するヒトの参考になるってわけ。

※1 コモディティー・エクスチェンジ（Commodity Exchange）の略。もともとは独立の取引所だったが1994年にニューヨーク・マーカンタイル取引所（NYMEX）と合併、NYMEXのCOMEX部門に。2008年にはNYMEXがシカゴ・マーカンタイル取引所（CME）と合併、ＣＭＥの傘下に。 ※2 ロンドン・ブリオン・マーケット・アソシエーション（LBMA）。17世紀中期にさかのぼる歴史を持つ。1919年に公的に組織化。1987年からイングランド銀行の監督の下で運営されている。 ※3　 2009年5月7日からはゴム市場をのぞき23時まで。後述。

せ、せんぱいっ！

わかったの？

よくわかりました。

ついでだから言っておくけれど、この値決めの順番っていうのも最近は変わってきているんだ。理由はコンピューター取引の登場。いま日本の商品・証券市場はすべてコンピューター取引になっているからユミちゃんにとってはそれが普通だよね。でもそれは結構最近のハナシ。前は手ぶりや身ぶりを駆使して取引していたんだ。それは海外でも同じ。ＮＹではいまも手ぶりの取引が残っているよね。でもその一方ではコンピューターによる取引もしていて、実質的に２４時間取引が実現している。だから午前９時前のいま、つまりＮＹ時間の夜中でも、取引が成立しているのさ。 　それと東工取だけれども、ゴールデンウィーク明けの（平成２１年）５月７日からはゴム先物を除くすべての商品の取引時間が朝の９時から午後１１時まで延長されることが決まっているから覚えておいてね。ただし全部の商品先物会社が午後１１時までお客さんの取引を扱うかどうかはわからない。それは会社が自由に決めていいことになっている。

わかりました、センパイ。でもひとつだけ教えてください。そんなに遅くまで取引するってなにかいいコトあるんですか？ サラリーマンのヒトが仕事を終ってからゆっくり先物取引をできるとかですかぁ？

う～ん。それもあるよね。でももっと重要なことは、ユミちゃんがリスク管理をしやすくなるってことかな。このハナシはとても重要なのだけれど、もう少ししてからきっちり説明する。それよりほら、取引が始まったよ。

あ、ほんとだ。ちかちかしてる。

【東京工業品取引所・金ミニ取引相場表（２００９年４月２日）】

限月 最新値 前日引 売気配 買気配 始値 高値 安値 終値 前日引値 出来高 09/4 2,934 +12   2,935 2,934 2,934 2,934   2,922 1 09/6 2,940 +20 2,944 2,941 2,940 2,941 2,940   2,921 4 09/8 2,932 +12 2,935 2,932 2,930 2,932 2,930   2,920 5 09/10     2,935 2,932         2,920   09/12     2,942 2,940         2,930   10/2     2,943 2,942         2,932

そう。ちかちかしているのは、いま、まさに取引が進行しているところを表しているのさ。

あれ？ でもこの相場表はきのう見たのとビミョーに違っていませんかセンパイ？

おっ。いいトコロに気がついた。実はきのうの相場表は新聞の相場表だったんだ。でもいまユミちゃんが見ているのはボクが注文を出している先物会社さんの相場表。新聞は取引終了時点の情報で、こちらはライヴなの。最大の違いは「売気配」「買気配」って項目があること。あと表にブランク（空きスペース）があることかな。

けはい…ですか？

そう。売気配は、金ミニ先物を売りたいヒトがいくらなら売ってもいいよって宣言していると考えて。買気配はその逆で、いくらなら買いますってこと。

売気配は買気配よりいつも値段が高いんですか？

そう。まず売りたいヒトはできるだけ高く売りたいと考えるよね。そして売りたいヒトはたくさんいる。６月限を見てよ。売気配は２９４４円、買気配は２９４１円。２９４４円は売りたいヒトがたくさんいる中で、いちばん安く売ってもいいと思っているヒトが提示している値段なんだ。逆に２９４１円は、できるだけ安く買いたいヒトがたくさんいる中で、いちばん高くおカネを出してもいいというヒトが提示している値段。もしも売り気配よりも高い、２９４５円で買い注文を出したヒトがいたとすれば、その注文は２９４４円か２９４５円で成立するよね。でも、実際にはそういう注文はないんだ。

えっ、えっと～。あそっか。

でしょ。だから売気配が買気配の値段よりも高くなることは絶対にないんだ。次は４月限の売気配を見てほしいんだけれど。ほら、ブランクになってるでしょ。これはだれも売りたいと思っているヒトがいないってこと。だから、このまま放っておくと、買気配の値段がどんどん上がってくる。

えっ！？ えぇ～？？ どういうことですかぁ～？？？

じゃ、ユミちゃんが金を売るならどういう条件で売るかな？

それはやっぱりお高く、そう少しでもお高く売りたいです。

その通り。みんなそう考えている。だから買いたいヒトだらけで売りたいヒトがいないいまは、買いたいヒトがちょっとずつちょっとずつ買いの気配値段を上げていくしかないってこと。

あ、そっか。

そして少しずつ値段が上がってきたある時点でだれか売ってもいいって考えるヒトが出てくる。そこで取引が成立するって仕組み。

え～と、バナナのたたき売りの逆バージョン？

そう。バナナのたたき売りは、まず売りたいおじさんがいる。おじさんは少しでも高く売りたい。だからたとえば５００円！とかいうわけ。でも、それじゃ誰も買わない。だから４５０円とか４２０円とか、少しずつまけてくる。もちろん買い方はじっと息を殺して「もっと下がれ～、もっと下がれ～」ってココロの中で念じてるでしょ。

いや、アタシは神サマに祈る。

祈っても結構。そしてついにおじさんは３００円なんて言いだすね。ついでに「ウチには年老いたオフクロと腹をすかせた３人の妻と子どもがいるんです」とか。でも、みんな突っ込んであげないんだよね、最近は。

そうそう、突っ込みません勝つまでは。

ノリボケありがとう。じゃあ２５０円！ ２５０円ないか２５０円。よ～しキヨミズの舞台からバンジージャンプしたつもりで２００円ならどうだぁ！

よし、買ったぁ～！

あ、じゃあアタシも売り切れる前に買います。おじさん、あたしにもバナナくださいっ！

でしょ。売気配と買気配が２００円で一致して取引が成立した瞬間。

わかりました、売気配と買気配の関係。

さあ、そうこうしているうちにユミちゃんが売った2月限の取引が成立して「始値（はじまりね）」が決まったよ。２９４５円だ。ユミちゃんはきのうの取引計算書のブランクを埋めてくれるかな。

ぐすん。はい。まず最初に現在の損益を計算します。 （売り価格－買い価格）×倍　率×枚＝損益 （２９３２－２９４５）×１００×２＝－２６００（円） だから「値洗損益金」はマイナス２６００円ってことなんですよね。

銘柄 限月 売／買 枚数 建玉日 約定値段 値洗 損益金 仮差引 損益金 取引 証拠金 預り証拠金 余剰額 金ミニ 10/2 売／新規 ２ 4/1 2932円 －2,600円   40,000円 260,000円

その通りだね。この前に勉強した計算の仕方（第２話「キソのキソを教えてください」その③参照）をよく覚えていたね。

ありがとうございます。あのセンセ「仮差引損益金」ってなにを書くのでしょうか？

うん。そこは手数料を支払ったのちの、最終的な損益金を書く欄なんだ。ユミちゃんは先物会社を経由して取引をするわけだから、手数料を支払わなければならないよね。その手数料なのだけれども、これはそれぞれの会社に決めがある。

えと、おすし屋さんみたいな。

ビミョーなたとえだなぁ。でも、まあ合っている。サービスの提供度合いでＡ社とＢ社は値段が違うっていうことなら、おすし屋さんと一緒。でも「時価」はないね。

それで、お会計はどのように…？

それは今度、専門家にお越し願って訊いてみることにするけれど、いまはとりあえず６００円ということにしよう。そうそう、消費税の３０円を忘れないでね。

こういうことでいいでしょうか？

銘柄 限月 売／買 枚数 建玉日 約定値段 値洗 損益金 仮差引 損益金 取引 証拠金 預り証拠金 余剰額 金ミニ 10/2 売／新規 ２ 4/1 2932円 －2,600円 －3,230円 40,000円 260,000円

よくできました。

ホメられてもイマイチよろこべないアタシがいるんですよね…。でも、これから。これからですから。センパイ！ アタシってば塩漬け名人のセンパイのこと信じてますから。

イマイチよろこべませんっ！