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第三講 さきもの取引ってなぜ必要なの?
さきもの取引ってなぜ必要なの?

さきもの取引には次のような機能があって、世の中にとってとても必要なものなんだよ。

さきもの取引の主な機能
(1) 公正な価格形成機能・価格発見機能
(2) 価格変動リスクの回避機能
(3) 資産運用機能

(1)公正な価格形成機能

公正な価格形成機能って何ですか。

買い注文と売り注文の量が一致するところを探してモノの適正な値段を見つけ出すことで、「価格発見機能」という場合もあるんだよ。

図説

モノの値段は、売り手と買い手のバランス(需給)で決まります。価格が高ければ「売りたい」と考える人が現れ、多くの売り注文が市場に出されます。しかし、それに対する買い手(需要)が現れなければ、新たな買い手が出てくる位置まで価格は下がっていきます。
逆に買い手が多く、売り手が少なければ新たに売り手が出てくる位置まで価格は上がっていきます。

このようにして売り手の注文と買い手の注文量が一致したときに適正な価格が生まれるんだ。
これを「公正な価格形成機能」とか「価格発見機能」などというんだよ。

売り手と買い手のバランスでモノの値段が決まるなんて、理にかなった方法ですね。

そうだろう。そのためにはなるべく多くの参加者が市場に集まる方がいいんだよ。より多くの人の意思が反映されることで公正で民主的な価格形成が行われるからね。

まとめ:公正な価格形成機能と価格発見機能
様々な思惑を持った売り手と買い手が市場に集まり、売買注文を集積させることでモノの適正価格を公正に発見することができる。
矢印 そのためにはなるべく多くの市場参加者が集まることが重要。

(2)価格変動リスクの回避機能

価格変動リスクの回避機能とは、なんですか?

ヘッジ機能とも言うんだよ。
例えば、春に種をまいてそれを秋に収穫する農家の人たちがいるよね。彼らはみんな、できるだけ高い価格で収穫物を売却したいと考えるけど、その年が大豊作になったら価格はどうなるかな。

豊作だと収穫物の値段は下がっちゃう・・・。

また外国でモノを仕入れて、船で輸送する貿易産業の人たちは、本国に到着するまでの間にモノの価格が下落したら損するよね。

そこで将来行おうとする実際のモノの取引(「現物取引」という)に先んじて、それと同じ取引をさきもの市場で契約することで価格変動による損失を避けることができるんだよ。これはさきもの市場が現物市場とほぼ同じ値動きをする性質を利用しているんだ。
図を見てごらん。

4月に種をまいて9月に収穫する農家(農産物)の場合
(売りヘッジ、又は売りつなぎ)
図説

農家は、将来収穫する作物が高い値段で売ることができるのか、安い値段となってしまうのかがわかりません。豊作等によって安い価格でしか販売できない場合、肥料代やトラクターの燃料費などのコストが、販売価格を下回って損になったりするリスクを負っています。このような価格下落による損失を回避する方法の一つがさきもの市場を使った「売りヘッジ」です。

将来の収穫時期に合わせて「さきもの市場」で売り契約をしておくことで、販売価格を固定化することができるのです。例えば、ある農産物について4月の時点で9月限(9月に決済期限がくる取引)のさきもの市場の価格が1トンあたり30,000円だったとします。農家はこの値段で収穫物が売れればよいと考え、さきもの市場で収穫予想量とほぼ同量の売り契約をしました。さきもの市場と現物(実際のモノ)の値段は概ね連動しますから、秋になって先物市場の価格が上昇していれば現物の価格も上昇しているはずです。

仮に、9月に1トン当たり32,000円に値上がりしていたとしましょう。この場合、さきもの市場の売り契約は1トン当たり2,000円の損失となりますが、現物は1トン当たり32,000円で売却できました。つまり、差引すれば、4月にさきもの市場で「売りヘッジ」した販売価格が確保されたことになります。 逆に価格が下落してしまって収穫作物が1トン当たり27,000円でしか売れなかったとしても、さきもの市場の30,000円の売り契約は27,000円で買い戻すことで3,000円の利益がでますから、この場合でも差引すれば1トン当たり30,000円の販売価格が確保されたことになります。

9月に仕入れる材料(金属等)を用いた 加工製品の販売契約を4月に締結する加工業者の場合
(買いヘッジ、又は買いつなぎ)
図説

物品製造業者は、将来仕入れようとする材料の価格が上昇するのか下落するのか、分かりません。

販売先との契約により事前に売価が決まっていたり、同業他社との競争の都合などから売価を柔軟に変更できない場合、原材料を安い価格で仕入れることができれば利益は大きくなりますが、逆に、高い価格で仕入れると、利益が小さくなったり、無くなってしまうかもしれないというリスクを負っています。

このような仕入価格の上昇リスクに備える方法の一つが先物市場を使った「買いヘッジ」というやり方です。

製造業者は将来材料を購入する時期に合せて、購入を予定している量と同じだけの量の買い契約(「買い玉」、「買いポジション」ともいいます。)を先物市場で持っておくことで購入価格を固定化することができるのです。例えば、ある製造業者が特定の金属素材を用いた製品を9月に販売する契約を4月に結んだとします。この業者は9月までに原材料を購入して製品を完成させなければなりません。製品に必要な金属素材の9月限(9月に決済期限がくる取引)の先物市場の価格が、4月の時点で1グラムあたり2,000円だったとします。

製造業者は、この値段であれば採算がとれると考えて製品に必要な量とほぼ同じ量を先物市場で買い契約しました。先物市場の値段と現物の値段は概ね連動しますから、9月になって先物市場の値段が上昇していれば現物の値段も上昇しているはずです。

仮に9月に1グラム当たり2,300円に値上がりしていた場合、現物を1グラム当たり2,300円で仕入れなければなりませんが、2,000円で買った先物契約を2,300円で転売することにより1グラム当たり300円の利益が生じるので、トータルでは1グラム当たり2,000円で購入できたことになります。 逆に先物市場の価格が下落して材料が1グラム当たり1,700円となった場合、現物は1,700円で購入できますが、2,000円で買った先物契約を1,700円で転売しなければならないので300円の損失が生じます。したがって、この場合も、トータルでは1グラム当たり2,000円で購入したことになります。

このように先物市場でヘッジ取引を行うことで、その後の価格変動の影響を避けることができますが、そのためには取引を行うための手数料など一定の費用が必要となります。そのため、仕入れに関する費用は、実際には2,000円よりも、もう少し高くなります。

「売りヘッジ」の場合はモノを持っている人が、モノの価格が下落することによって生じる損失を回避(ヘッジ)するために、また「買いヘッジ」の場合はモノを持っていない人が、将来モノの価格が上昇することによって高い値段で買わなければならないことを回避(ヘッジ)するためにさきもの市場を利用するんだ。

そしてヘッジ目的で取引参加する人たちのことを「ヘッジャー」というんだよ。ヘッジャーは通常、実際のモノの取引に先行して先物取引のポジションを持っているのが特徴だよ。

現物を持っている人(これから売ろうとする人)は先物売り、現物を持っていない人(これから買おうとする人)は先物買いということですね。

その通り。下の図を見るとよく分かるよ。

まとめ:価格変動リスク回避機能(ヘッジ機能)

図説


(3)資産運用機能

資産運用機能とはなんですか。

先物市場の価格が日々変動することを利用して、その価格差から利益を得ようとすることだよ。投機的取引の場の提供といってもいいだろうね。投機目的で参加している人のことを「スペキュレーター」というんだよ。もちろん、そういう人たちは損をするかもしれない危険性を承知の上で、利益を得るために市場参加しているんだ。

さきもの市場で利益を得るって・・・?

経済活動の原点である、「安く買って」、「高く売る」。または「高く売って」「安く買う」という方法で資産運用ができるんだよ。

最近では「プロップハウス」とよばれる会社形態で先物市場に参入し、利益を上げようとする参加者もいるんだよ。

図説

日本の市場ではスペキュレーターとヘッジャーは、どっちが多いの?

正確な統計が取られているわけではないけど、平成19年度の取引実績(売買高)では投機目的の参加者が6割強から8割強の割合を占めたようだね。ただし、これはあくまでも国内に上場されている全商品の推計平均値であって、ヘッジャーの参加比率が高い商品もあれば、逆にスペキュレーターの比率が高い商品もあるんだ。

日本市場は総じてスペキュレーターの取引の割合が高いことが特徴です。そのため取引量は決済期限(取引可能な期間)が最も長く、利益を得られる機会が多いことが期待できる期先(キサキ)限月に集中しています。 一方、米国市場では未決済の契約の数量においてヘッジャーとスペキュレーターが概ね半々の割合となっています。取引量は決済期限の比較的短い限月に集中しています。

【データ】 ヘッジャーとスペキュレーターの参加比率

<日本の場合>
平成19年度の取引量(売買枚数比率[推計値])

図説

日本ではヘッジャー、スペキュレーターの区分ごとの取引比率はデータを取っていない。
数値は日本商品先物振興協会による推計値。

市場会員等 自己取引のみを行える取引所の会員等をいう。当業者や資産運用目的で自己資金を運用する業者などによって占められている。顧客の注文の市場へのとりつぎはしない。
当業者 モノの生産・流通・加工などに携わる業者をいう。
自己取引 商品市場で直接、取引できる資格を有する者(取引所の会員又は取引参加者)が自社(自己)の計算で行う取引。取引によって生じる損益は会員等に帰属する。
受託会員等 自己取引及び委託取引の双方を行える取引所の会員等をいう。
委託取引 個人投資家やヘッジャーなど商品市場で直接、取引する資格を有しない者が取引所の会員等に委託して行う取引。取引によって生じる損益は会員等に委託した者(「委託者」という。)に帰属する。



<米国の場合>
2008年11月18日の未決済残高
商品名 内訳 割合
CBOT コーン

当業(ヘッジャー)

50.5%

非当業(スペキュレーター) 49.5%
NYMEX 原油

当業(ヘッジャー)

51.2%

非当業(スペキュレーター) 48.8%

未決済残高:反対売買等によって決済されていない契約の数(枚)
当業:現物取引の裏付けのある取引参加者。ヘッジャーとほぼ同義。
CBOT:Chicago Board of Trade(シカゴ商品取引所)
NYMEX:New York Mercantile Exchange(ニューヨーク商業取引)
米国の未決済残高においてはヘッジャーとスペキュレーターの割合が概ね半々となっている。

公正な価格形成、価格変動リスクの回避、資産運用か・・・、先物取引には大切な役割があるんですね。

そうなんだ。
日本の産業界では、系列企業などのいわば組織型経営でリスクの分散をはかり、価格変動リスクを吸収してきたので、これまで市場型のリスクヘッジを必要としなかった。そのために一般個人の投機家が市場取引の主役であった期間が長かったけど、経済の市場化・国際化・透明化が進むにつれて、先物市場の役割はますます大きくなるはずだよ。